【試論】テールからヘッドへ
ここでは現実世界に現れる数字の傾向性について考察したいと思います。
歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
- 作者: マーク・ブキャナン,Mark Buchanan,水谷淳
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ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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検索ワードの人気ランキングなどを調べると、大抵は芸能人の話題やその時起きた大きな事件の話題などが上位にあがります。アイドルや俳優のスキャンダル、政治家の発言についての批判など確かに興味深い話です。
有名人のスキャンダルにマスコミが群がり、市民は眼に飛び込んでくる新聞、雑誌、インターネットなどでの情報を見て考えます。そして仲間たちとその話題を取り上げて会話します。特に興味のあることが共有されていなければ、アニメの話題にはなりませんし、経済の話題にもなりません。まして、プラトンの著作やカミュの著作について話し合われるということはまずないですし、白亜紀の話や功利主義の話になることはまずありえません。
仕事などのお昼の休憩の話題に「ソクラテスがね」と言ったところで白けるのは殆ど確定されていることです。それよりも「AKBの誰々ちゃんってかわいいよね」という会話の方がよかれあしかれ自然なことだと思います。そうはいってもこれも多くのケースで場違いではありますが。
インターネット上の検索ワードや雑誌や書籍の売り上げを数値化した場合、一般的に人気のあるものから人気のないものへと緩やかなカーブを描いた曲線として現れてきます。何らかの規則性があるかのようなこの緩やかな曲線はべき乗則と照らし合わされて考察されています。
もっとも人気がある部類にはいるものは非常に高い数値を現わし、そこから急激に減少していきます。そして少しづつその下がり方は緩やかになり、多くのあまり人気のない部類にはいるものは非常に低い数値を現わしながら、同時に様々な項目が広がってきます。この高い数値を現わす領域を一般的にヘッド部分といい、低い数値を現わす領域をテール部分といいます。ヘッド部分の情報やモノは世の中に溢れかえるほどありますが、テール部分の情報やモノは世の中の様々なところで少しながら存在しています。
幾つかの企業はヘッド部分に目をつけていますが、別の企業はテール部分に目をつけています。Amazonなどが後者に入ります。数多くのニッチを抱えることによってヘッド部分すら取り込んでいます。
社会に溢れる情報や商品に限らず、私たちの思考も頻繁に使われる部分とそうではない部分とに分かれています。たとえば単語の使用頻度などがこのべき乗則を現わすと言われています。
そこでこのあまり使われていない領域に焦点を当ててみましょう。脳内のこの種のニッチ基盤に焦点を当てることで、思考の枠組みを拡げることができるのではないかと私は思います。何も関わりのないようなことは、実際深くかかわっているということはあります。科学的なパラダイムシフトが起こるのは恐らくこのニッチの取り込みと深く関わっていると私は思います。
多くの人々によって信じられている事柄が幾つかのあまりそれとは関わり合いがなさそうな情報と結びつくことによって、その常識が一気に覆されます。私たちが解決困難と思われる問題は、恐らく確かに困難で、かつどう足掻こうが解決できないものであるかもしれません。しかし場合によっては幾つかのニッチと結びつくことによって解決されるということは考えられると思います。
ここではそういった考えを基盤としながら、様々な問題に焦点を当てていこうと考えています。