【試論】期待していることについて
「事実は理論依存的であるが、しかし理論決定的ではないのである。」
――B・ダナーマーク、M、エクストローム、L・ヤコブセン、J・カールソン『社会を説明する――批判的実在論による社会科学論』
- 作者: バースダナーマーク,リセロッテセコブセン,ジャン・Ch.カールソン,マッツエクストローム,Berth Danermark,Jan Ch. Karlsson,Liselotte Jakobsen,Mats Ekstr¨om,佐藤春吉
- 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
- 発売日: 2015/03/31
- メディア: 単行本
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素材
① 先天的に生物としてのメカニズムをベースとした個体
知りうる限りでいう40億年前の冥王代から続く生物の進化をベースとする
受精から生誕、成長期にかけて性格のベースとなるものが形成される
② 後天的に生物としてのメカニズムをベースとした獲得した記憶
私たちが頻繁に使用する記憶は恐らく2割くらいであり、思考するに当たって個体において記憶がどのように形成されてきたのかという点が思考に影響を及ぼす
記憶がどのように既に連関しているのかが、物事を思考する上で重要な位置を占める 記憶の相対的な強度は思考の進行の可能性と同義的である
二者間の記憶の連関は基本的に異なる可能性をもっている
ある人にとっての常識は、他の誰かにとっては常識ではない
それは経験の違いが大きく、両者にとっての妥当性の前提が異なるからである
二者間の意見の相違がいつまでたっても噛み合わないのはそのためである
意見を交わすこととは、相手の経験に基づく妥当性の前提を探ることを含んでいる
ここで筋の通し方の問題を見つけ出すことができる
③ 感覚器官によって現に現象されている情報
私たちにとって今現在、実際に大きな比重を占めるのは目の前にある出来事である
私たちが現在と感じるものはこの感覚器官によって知覚している現象と、短期記憶、および長期記憶に基づく視覚的およぶ聴覚的な想像、そしてそれを直感と思慮を交えて現状を見つめる状態のことである
④ ①②③の影響を受けて思考されている想像
私たちが想像しているものは非常に直感的なものである
私たちが思慮する状態とは、ある直感的な想像を一時的に保留して、別の直感を頼りにする作業から直感的な判断とは別の判断を導き出そうとする作業のことである
システム2は感覚器官を通じだ瞬時の判断とは別に想像において連関させる直感の組み合わせである
思慮深いからといって必ずしもよい判断を生み出すとは限らない
限られた時間のなかでの判断において、直感的な判断と思慮に基づく判断の組み合わせが検討される
人間集団において人々が互いに協力しながら行動する場合、諸個人の直感的な判断と思慮に基づく判断の交錯が必ず生まれる
人は自分自身を別視点、つまり経験の差異に基づく視点で評価することができない
⑤ 個人の記憶をベースとしたスキーマによる評価
私たちが何かを評価する場合、それは衝動、願望による見返りを前提としている
社会のあり方を評価する場合も基本的には同じである
社会的な妥当性は、衝動と願望を前提としている
期待しているものが異なるならば当然に妥当性を測るための基準、対象が異なる
妥当性を論じるためにはそれが妥当であると見做すための様々な基準を示さなければならない
妥当性を求めることが意味するものはその基準に基づく妥当性の真偽性のみであり、その基準が一つでも了解が得られない場合、この基準に基づく妥当性の検証は当事者個人のものにしかならない
この時、合意されないことによって衝動と願望が生じる
⑥ ①をベースとした衝動および願望
私たちの衝動や願望のベースは対外敵への適応(被食者として捕食者に対応することなど)および摂取への適応(捕食者として被食者に対応することなど)を前提としているものが多い
思慮および工夫することは、前者に較べて後発的に生まれたものである
果断的でありかつ思慮深いことが個人に対して要求されるということ――おそらくこの要求が普遍化することにはある程度の注意を払う必要があるだろう