日常風景のなかで

日々の生活のなかで思ったことをつらつらと調べながら書きつづります

【覚書】『社会を説明する――批判的実在論による社会科学論』

4人のスウェーデン人による著作

 

機会があればまとめたいですが、とりあえず、目次だけ。

 

社会を説明する―批判的実在論による社会科学論

社会を説明する―批判的実在論による社会科学論

  • 作者: バースダナーマーク,リセロッテセコブセン,ジャン・Ch.カールソン,マッツエクストローム,Berth Danermark,Jan Ch. Karlsson,Liselotte Jakobsen,Mats Ekstr¨om,佐藤春吉
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2015/03/31
  • メディア: 単行本
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第1章 イントロダクション

①科学は一般化的主張を有する

②社会的諸現象を生み出す因果的なメカニズムを明るみに出すことによってそれらの社会的現象を説明する――研究の基本的にな仕事

③説明的努力において、アブダクションレトロダクションが重要なツールとなる

④研究にとって理論の役割が決定的に重要である

⑤研究は、広汎な方法論的なツールを含んでおり、具体的な研究プロジェクトにおいて、それらのツールの多くを使用しなければならない――批判的方法論的多元主義

⑥研究においてインテンシヴなデザインまたはエクステンシヴなデザインという用語を使用する

⑦社会の開放システムとしての性質は、社会科学をして、自然科学では可能だった予測を行うことを不可能にする

 

 いくつかの不幸な二元論

二極分裂の例(あれかこれか的なアプローチ either-or approach)

 実証主義 対 解釈学

 量的研究方法 対 質的研究方法

 普遍主義 対 特殊主義

 理論研究 対 経験研究

 科学哲学 対 社会科学実践

 法則定立的なアプローチ 対 個性記述的なアプローチ

 

  ➡ あれもこれも的なアプローチ both-and approach

著者たちがいう「あれもこれも的なアプローチ」はF・ニーチェ超越論的パースペクティヴィズムを念頭においていると思われます。

 「フリードリッヒ・ニーチェは、パースペクティヴィズムに、私たちは何かあるものをつねに特定の観点から観察するのだという意味を与えた。」

 

結論

方法と理論は、社会科学における2つの別々の存在と扱ってはならない

①理論化は、研究方法それ自体に内在する絶対的に重要な部分

②研究の対象は、常に理論的に定義されている

 ➡ 存在論方法論社会理論および実践的研究、という3つ組の関係が、社会科学において成功をおさめるべき

 

本書では特に扱っていないが、私個人の意見として、存在論に関して進化生物学からの知識の摂取は不可欠であると考えています。そのためにはある程度、宗教論も絡めて論じられる必要性があると思います。

 

背景

「学生にたいして、メタ理論上の立場から最終的に確固として打ち立てられたかたちで、有益な組み合わせがどのようなものを意味しうるのかについて学ぶことを許さないようなしかたで教育がなされることが、一般的な状態なのである。」

 

スウェーデンにおける教育もそうであるように、日本における教育も概ねそのようなものであろうと私は思います。この点に関して言えば、メタ理論を形成した上で、あれかこれか的なアプローチに挑戦しようとする試みは、イギリスやアメリカなどで発展した分析哲学からのアプローチにある程度見られるのではないかと思われます。

 

また著者たちはメタ理論の導入について次のような注意を喚起します。

「メタ理論は、あらゆる社会科学研究の計画において中心的な性格のものでなければならないのであり、場あたり的に導入されてはならないものである。」

 

これは恐らくですが、例えばある理論に対応しているあるメタ理論があるとして、それが単にメタ理論という理由だけでそれが絶対化し、場合によっては理論が単に場当たり的に解釈されてしまう恐れがあるためだと思います。

分析哲学などにみられるある種のメタ理論の体系には理論の可謬性を指摘するものがあり、メタ理論そのものも絶えず批判に晒されざるをえないものなのだと思います。

メタ理論にアプローチする場合でも、メタ理論からアプローチする場合でも、メタ理論それ自体が絶えず批判されうるものであるという解釈を含んでいるためなのだと思います。

 批判的実在論の生成

批判的実在論は、イギリスの哲学者ロイ・バスカー(Roy Bhasker)の影響を強く受けています。

 

科学と実在論―超越論的実在論と経験主義批判 (叢書・ウニベルシタス)

科学と実在論―超越論的実在論と経験主義批判 (叢書・ウニベルシタス)

 

 

 

自然主義の可能性―現代社会科学批判

自然主義の可能性―現代社会科学批判

 

 

 

弁証法

弁証法

 

 

バスカーの批判的実在論はロム・ハーレーの『科学的思考の諸原則』の影響を受けているそうです。

またアルゼンチン出身の科学哲学者マリオ・ブンゲがバスカーよりはやくこれに似たアイデアを提出しています。

①実在は複数の位相に編成されている

②ときには、質的に新しいものがより低い位相から創発されることが可能である

③実在世界と概念世界との間の区別を、すなわち、事実的な実在と実在の記述との間の区別を主張した

④実在を観察可能なものに還元するという理由で、経験主義を批判した

 

アングロサクソンの世界では批判的実在論が盛んに論じられている。

バスカー以外には、マーガレット・S・アーチャー(M S Archer)、アンドリュー・コリアー(A Collier)、トニー・ローソン(T Lawson)、ピーター・マニカス(P Manicas)、イリアム・オーストウェイト(W Outhwaite)、アンドリュー・セイヤー(A Sayer)などが本書では言及されています。 著者たちは彼らのなかでは特にコリア―を特筆しています。

 

実在論的社会理論―形態生成論アプローチ

実在論的社会理論―形態生成論アプローチ

  • 作者: マーガレット・S.アーチャー,Margaret S. Archer,佐藤春吉
  • 出版社/メーカー: 青木書店
  • 発売日: 2007/05
  • メディア: 単行本
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経済学と実在

経済学と実在

 

 

 批判的実在論 対 基礎づけ主義および反基礎づけ主義
 
 本書の概略
 

第一部 批判的実在論への導入

 

第2章 科学、実在、概念

 

 知識と知識の対象
 
 科学の存立が可能であるためには、実在はどのようなものでなければならないのか
 
 実験
 
 実在の3つのドメイン

実験――実在への能動的な介入

実験の成果――科学理論によって構築されており、実在についての私たちの概念化全体のもとに包括されている

 

➡ 結論

①実在は、それについての私たちの概念と知識からは独立して存在している

②実在およびこの実在のふるまい方は、重要な観点からして、直接的な観察によって接近可能なものではない

 

 実在の一つの特性は、それが透明ではないということ

 単なるデータ収集以外に科学などというものは存在しない

 ➡

 実在は直接観察できない深い次元をもっているという洞察

  「表面化でなにかが起こっている」

  「この背後には何か別のものがあるにちがいない」

 

バスカーの批判的実在論による方法論的帰結

実在の3つのドメインとは次の通りです。

経験のドメイン

 直接または間接に経験する事柄

アクチュアルなドメイン

 この世界で起こっている事柄(観察される事柄と同義ではない)

実在のドメイン

 この世界のなかに出来事を生み出すことのできるもの(隠喩的に言えばメカニズム)

 

(ちなみにトニー・ローソンの分類によるとempirical、actual、deepとなっているようです。)

 

何故、バスカーは上記のような3つのドメインを提出したのか。その一つの理由が以前の科学が「経験のドメイン」からのみ論じられていたためというのがあります。

 

経験のドメインはどのように形成されるか。

 科学は理論浸透的ないし理論負荷的である。

 経験によるデータは何らかの理論と関連して現れる。

 データは常に理論的概念によって媒介される。

 

「経験世界」というありふれた表現は誤解を招くものである。

 バスカーはこれを「認識論的誤謬(epistemic fallacy)」と表現する。

 

批判的実在論の主張

 問題点

 3つのドメインをひとつのドメインに還元すること

 そうではなく、

 科学の仕事とは、

私たちが経験すること(経験のドメイン)と、実際に起こっていること(アクチュアルなドメイン)、およびこの世界において出来事を生み出している根底のメカニズム(実在のドメイン)、との間の関係性と無関係性、それぞれについて、探究し確定すること

 

 時に経験によって観察された事が、実際に起こる事を巧く説明できない場合があります。そのために、ときに科学者は「それまでになされたものとは違う方法でそのメカニズムを経験するために、出来事の特殊なパターン(閉鎖システム)を生み出さなければならない」のだと思います。

 

 この閉鎖システムを見出す作業は自然的な実在のみならず、社会的な実在についてもあてはまるだろうというのが本書の主張になります。

 
 科学の意存的対象と自存的対象
 
 実践としての科学
 
 実践、意味、概念、言語の間の関係
 
 自然科学と社会科学のそれぞれの対象
 
 社会科学における概念化の諸条件
 
 結論
 

第3章 概念的抽象と因果性

 

 概念的抽象化
 
 構造分析
 
 因果性
 
 創発的な力とメカニズムをともなった階層化された世界
 
 開放的システムと閉鎖的システム
 
 結論

 

第二部 方法論的含意

 

第4章 説明的な社会科学のための一般化、科学的推論、モデル

 一般化――異なる2つの意味

 科学的推論と思考操作

 説明的社会科学のための2つのモデル

 結論

第5章 社会科学の方法論における理論

 理論と観察についての3つの総合的視点

 理論とは何か

 理論的概念

 理論化と経験的研究――2つの主要な伝統

 中範囲の理論――経験的なデータの助けを借りた理論の検証

 グラウンデッド・セオリー――経験的事実からの理論の生成

 中範囲の理論とグラウンデッド・セオリー

 社会科学研究実践における一般理論

 経験的研究における一般理論の活用

 結論

第6章 批判的方法論的多元主義

   ――インテンシヴならびにエクステンシヴな研究デザイン

 諸方法を組み合わせる

 量的方法

 質的方法

 インテンシヴならびにエクステンシブな研究のデザイン

 研究上の諸問題

 関係性と集団のタイプ――何が社会現象を構成しているのか

 作業手続きと標本抽出――なぜ文脈化が重要なのか

 いくつかの方法論的な制約

 結果のタイプ

 結論

第7章 社会科学と実践

 前提条件――エージェンシーと構造との区別

 社会科学と社会計画

 社会批判としての社会科学

 結論

第8章 結論

 因果性とメカニズム

 実在と差異化と階層化

 閉鎖的システムおよび開放的システム

 実在の意存的および自存的な次元

 社会科学の解釈学的諸条件

 批判的実在論の批判的要素

 批判的実在論と方法論